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重慶日記 第6信(2008年5月5日・ 内田 知行 ) 

重慶日記 第6信(2008年5月5日・ 内田 知行) 

  4月29日の昼間、茜と渝中区に最近できたショッピング・モールである「洪崖洞民俗風貌区」にでかけた。坂の町、重慶の地形を生かした商業地区である。嘉陵江に面した崖を穿って造った商業施設が1階から8階まであり、9階はホテルの入り口になっている。1階と9階が道路に面しており、外部からの出入り口になっている。2階が「洋貨街」、3階が中国の民芸品や骨董品のお店、4-8階が食品や軽食のお店、レストラン街になっている。4階で「羊肉米粉」という羊の肉と香菜の入ったうどんを食べ、川魚のからあげなどをつまんだ。搗きたてのお餅ときな粉を買った。ウインドーショッピングをしてびっくりしたのは、この4月20日にフロアの店が一斉に開店したという「洋貨街」である。大小のスペースに区切られておそらく80店舗以上が入っていた。それがほとんどすべて世界の有名ブランドのコピー商品の小売店なのである。時計ならローレックスの男性用が450元(約7000円)、女性用が430元(6600円)、ルイ・ヴィトンの各種バックが100元(1500円余)、プラダがそれよりちょっと高め、内側が本皮のグッチが300元(4600円)、アルマーニの上着が300元といったところである。腕時計は、ローレックスのほかに、オメガ、ロンジン、ブルガリ、シャネル、ヴィトンなど。残念ながら、わがセイコーやシチズンのコピーはない。万年筆はもちろんモンブランのコピーが置いてある。時計も万年筆も立派なケース入りである。私自身は今から18年ほど前に台北でローレックスのコピーを日本円3000円ほどで買ったことがある。その時の店員の口上は、「ムーブメントはシチズンだから正確だよ」というものであった。電池が切れるまでの2年弱のあいだ正確に動いていた。いまの中国のコピー時計の質はわからない。時計店に贋物の電池交換を頼むのは気が引けて、今では私のローレックスは机の引き出しの奥で眠り続けている。

  このショッピング・モールは、重慶の「合富輝煌」不動産開発という会社が開発し、10平米から20平米ほどに区分して切り売りしている。1平米当たり2万8000元(約43万円)で売りに出しているそうである。4階にあるうどんなどの軽食店の経営者はちいさな区画でも月額3000元の家賃を所有者に支払っているという。この十数年間、中国の製造業者による外国メーカーにたいする知的所有権の侵犯が国家間の争点になっている。「洋貨街」がコピー商品のデパートだというのは驚きだが、これらの商店が一網打尽に摘発され、閉店に追い込まれたらどういうことになるのだろうか。きっと不動産開発業者もおおきな打撃を受けることになるだろう。明らかに見て見ぬふりをしている政府にも大きな責任がある。

  4月30日の午後、茜につれられて家の近くの盲人のマッサージ院に行った。1時間の全身マッサージが20元、30分の局部マッサージが10元である。店はきわめて開放的で、入り口にドアはあるのだが、開け放たれている。10坪ほどのコンクリートの床に6台の1メートルほどの高さのベッドが並べられている。ベッドとベッドのあいだにはカーテンもない。先客は男性が一人だけで、4、5人いる盲人のマッサージ師はひまそうにしている。ベッドは頭部のところが丸くくり抜かれている。うつ伏せになったときに顔がすっぽりと入るための工夫である。いつもメガネをかけて細かい字を読んでいるので、肩がこっている。でも今回は全身マッサージを試してみた。おばさんの盲人がやってくれたが、なかなか力が強い。前半が肩の部分、後半が脚の筋肉のマッサージである。仕上げに「打火管」をやるか、と聞かれた。なんだかわからないが、茜がやると後で気持ちがよい、という。背中の部分にポンポンとやって、5分間くらいタオルケット背中にかけられた。初めは猛烈に背中が重くて、次第にポカポカとしてきた。直径5センチくらいの半球体のガラスの吸引器を背中のつぼに当てて吸引するのである。あとで家に帰って鏡で背中をみると、赤い球形が背中じゅうに出来ている。皮下の毛細血管の血が吸引によって表皮の近くに集まって充血するという現象である。脚のマッサージですっかり脚のだるさが消えていた。全身の血の巡りもよくなったからだろうか、この日は夜もすぐに眠りについた。いつもは朝までに1,2回トイレに行くのにこの日の夜は朝までぐっすりと眠れた。なかなかの効き目である。5月5日の夜も肩の局部マッサージと「打火菅」をやってもらった。1回目の球はまだ背中に黄色く残っている。そこに新たにいくつも赤い球ができたから、黄色い球は赤い出来立ての球の影みたいにみえる。若いカップル同士の強烈なキスマークも「打火菅」と同じ充血現象でなかなか消えないというが、こちらの赤丸は形も大きさも同じで色気があるとはいえない。キスマークも精神的な効果を当人たちに与えているだろう。しかし、つぼに当てているぶんだけ赤丸のほうが医療上の効果がある、と中年の身を慰めている。

by zuixihuan | 2008-06-18 23:42 | 重慶日記(完)